はじめに

●血圧とは、何でしょうか。血管は管であり、血液が流れています。血圧とは、血液が血管の壁を押す圧力です。つまり、血圧は血管の側面を押す圧(側圧)でして、血液が流れる方向の圧ではありません。このため、血圧は、腕や手首にマンシェットを巻いて血管に側面から圧を加える方法で、測定することが出来ます。心臓は、収縮(縮む)と拡張(拡がる)を繰り返して血液を動脈に送り出して、全身に血液を届けます。心臓が収縮する(縮む)と血圧は高くなり(収縮期血圧)、一方、心臓が拡張する(拡がる)と血圧は低くなります(拡張期血圧)。

高血圧とは? 

●高血圧とは、血圧が高い状態が続くことです。病院内で、収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上の場合に、高血圧と診断します。日本では約4,300万人が高血圧と推定され、そのうち約3,100万人で血圧管理が不十分と言われています。

●高血圧の9割は、「本態性高血圧」という原因が明らかではない高血圧です。これには、食塩の摂り過ぎ、運動不足、肥満、多量の飲酒、喫煙、ストレスなどの環境的要因や、遺伝的要因などが関係しています。通常は、自覚症状がありません。一方、高血圧の残り1割は、他疾患に引き続いて生じる「二次性高血圧」です。これは、ホルモンの異常や、腎臓や心臓の病気など、特定の原因で起こります。

高血圧だと何が悪いの?

●高血圧は、自覚症状がない方が多く、サイレントキラー(静かな殺し屋)と呼ばれています。自覚症状のないうちに、殺し屋が狙うのは、脳卒中(脳出血、脳梗塞)、心血管病(心筋梗塞、心不全)、腎臓病です。順に見ていきましょう。

脳出血:高血圧の状態が長く続き、血液が血管の壁を強く押し続けると、動脈の壁が変質し、固く脆く(もろく)なってしまいます。特に、脳の動脈が固く脆くなってしまうと、血圧が特に高い時間に血管が破れることがあり、これが脳出血です。脳出血には、生命の危険があり、後遺症が残ることもあります。

脳梗塞:一方、高血圧では動脈壁の内皮細胞も変質してコレステロールが血管内皮にこべりつき易くなり、(血中コレステロールが高いと)動脈の内側に粥状の隆起(プラーク)が出来ます(アテローム性動脈硬化、粥状動脈硬化)。脳の血管で、プラークが破れて血栓が出来ると、脳の血流が途絶えてしまい(虚血)、酸素や栄養不足になった脳神経組織が障害されます。これが脳梗塞です。脳梗塞にも生命の危険があり、後遺症が残ることもあります。

心筋梗塞:心臓は絶え間なく拍動しており、沢山の酸素を使います。心臓の細胞に酸素等を送り届けてる動脈(冠動脈)にアテローム性動脈硬化が起こり、プラークが破れて血栓が出来ると、心臓の血流が途絶えて(虚血)、酸素や栄養不足になった心筋組織が障害されます。これが心筋梗塞です。生命の危険があり、心機能の障害が残り心不全になることもあります。

心不全:高血圧の状態では、心臓は、血液を身体に送り出すのに強く収縮する必要が生じて、筋トレのようなことになり、心筋が厚くなり、心臓が大きくなります(心肥大)。ところが、心肥大の状態が続くと、心臓はへたってしまい、十分に血液を送り出せなくなり、心不全になってしまいます。慢性心不全では、坂道や階段を上ると息切れがする、という症状が出ます。生命の危険があり、適切な治療が必要です。

腎臓病:高血圧が続くと、腎臓の動脈のアテローム性動脈硬化から腎臓機能が低下していき、尿を作りにくくなり、高血圧性腎不全で人工透析になることがあります。尿が出来にくいため、体内に体液が残って血圧がさらに上がり、高血圧ー動脈硬化の悪循環に陥りやすくなります。

高血圧の診断

●問診、身体診察のうえ、収縮期血圧/拡張期血圧を測定します。病院内の血圧が、140/90 mmHg以上(収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上)の場合に、高血圧と診断します。また、家庭の血圧が135/85 mmHg以上である場合にも、高血圧と診断します。家庭の血圧は、例えば、朝と晩の1日2回、週5〜7日に測定して評価します。一方、二次性高血圧が疑われる際には、血液検査、尿検査、超音波検査などを実施し、必要に応じてCT・MRI検査なども検討されます。高血圧の診断基準は、大規模な統計から、心血管イベントや生存率等が高まる血圧値を検討した結果であり、証拠に基づいています。なお、アメリカでは、脳卒中や心血管病の発症や進行をより強く抑制するため、2017年以降、130/80 mmHg以上を高血圧と診断しています。

高血圧の治療

●高血圧は、上述のように、脳卒中や心血管病等を招いてしまいます。そこで、高血圧治療の目的は、脳卒中や心血管病等の発症や進行を防ぐことです。まず、生活習慣の修正が治療の基本です。減塩、野菜果物の積極的な摂取、体重の減量、運動、節酒、禁煙などが重要です。

●降圧目標値は、年齢や合併症によって違います。家庭血圧の降圧目標値は、若年・中年・前期高齢者(75歳未満)では125/75mmHg未満です。一方、75歳以上の後期高齢者では、それより高い135/85mmHg未満が目安です。

また、糖尿病、蛋白尿のある慢性腎臓病(CKD)を合併している高血圧患者様は、脳卒中や心筋梗塞等を発症するリスクが高いため、降圧目標値はより低く、125/75mmHg未満として、これらの疾患を予防します。

●生活習慣の修正に加えて、降圧薬の投与が必要です。主な降圧薬は、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬などです。患者様おひとりおひとりのご病状に合わせて、薬を処方します。

薬を飲みたくない患者様のお気持ちに寄り添った治療

●降圧薬が必要な状況で、降圧薬を飲まないことのデメリットは、上述のように、脳卒中や心血管病等を招いてしまい生命の危険があることです。一方、降圧薬を飲むことのデメリットは副作用ですが、通常は降圧薬の副作用はほとんどないか強くはありませんので、患者様おひとりおひとりに適した形で副作用を避けながら薬を飲んでいただける場合が多いです。

●また、高血圧の薬は、一旦始めると、止められないから、飲みたくないと言われる患者様も一定数おられます。高血圧の治療は、生活習慣の修正と、降圧薬の組み合わせです。生活習慣を修正していただくと、降圧薬が不要となる場合もあります。当院では、生活習慣の修正に患者様と一緒に取り組みながら、薬を減らしたり止められるようになることを目指していきます。

アクセス

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