⑫爪のデコボコ

爪のデコボコについて、患者様からお尋ねいただいたので、説明資料を作ってお渡ししました。他の方にも、少しでもお役に立つことがあればと思いますので、掲載します。

⑪身体の中で、病原体との戦争⑥ ワクチンは、免疫記憶を作る

それでは、ワクチンを打つと、身体の中では何が起こるのでしょうか。身体の免疫細胞にとっては、ワクチンは病原体のような異物です。このため、ワクチンに対して、監視部隊細胞(樹状細胞)から司令官細胞(ヘルパーT細胞)が連携して、2つの特殊部隊、抗体ミサイル細胞(B細胞)と殺し屋細胞(キラーT細胞)が整備されて戦います。この際に、一部の特殊部隊が生き残ります。将来、ワクチンではなく本物の病原体が身体に入ってくると、この生き残り細胞が素早く増殖して、抗体ミサイル細胞(B細胞)と殺し屋細胞(キラーT細胞)の大軍隊を整備し、病原体を中和し、感染細胞を身体から排除します。つまり、ワクチンは、ダミー戦争を扇動して、戦争を体験した生き残り免疫細胞を生み出すのです。この生き残り免疫細胞が、身体の中に残っているおかげで、もし本物の病原体に感染しそうになっても、(ワクチンと打ってない時に比べて)迅速に、大規模に、軍隊を整備できるため、本物の病原体の増殖を許さなかったり(つまり、感染させない、無症状)、たとえ罹患しても軽症で済んだりします。

ワクチンの中には、2回、3回と接種するものもありますね。これは、1回目のワクチン接種によって、生き残り細胞が出来ますが、その数が十分でない場合があります。このあと、2回目のワクチンを接種すると、初回ワクチンによる生き残り細胞が起点となって、一旦軍隊が整備されて、また生き残り細胞が出来るのですが、生き残り細胞の数は増えます。2回目のワクチンを接種すると、生き残り細胞の数はさらに増えます。このあたりは、ワクチン接種の間隔や種類にもよりますが、基本としてはこのようです。こうして、適切な回数や感覚のワクチン接種によって、生き残り免疫細胞を作ることが出来て、本物の病原体から身体を守ることに役立ちます。

「免疫」とは「疫を免れる」と書き、2度無し、つまり、一度かかった感染症には2度目はかからない、とも考えられていました。ある伝染病に、赤ちゃんの時に罹った人は、100歳になってもそれに罹らないと。しかし、どうも、多くの場合、そうではないようです。生体防御効果か持続するのは、数年おきに何回も病原体に感染していて、その都度、軽症で済みながら、生き残り免疫細胞が新しく作られて更新される、ということのようです。何かの病原体に、赤ちゃんの時に初めて感染すると、その時の戦いの生き残り細胞が体内に残っていて、5歳の時に2回目の感染をすると、その生き残り細胞を起点として戦争が起こってまた生き残り細胞ができて、ということを数年おきに繰り返している、ということです。 一方、ワクチンも、終生免疫、つまり、一度ワクチンを打てば予防効果が一生続くと、考えられていた時代がありました。しかし、どうも、多くの場合、そうではないようです。このため、大人になっても、ワクチンを打って、生き残り細胞を新しく作り直すことが、肝要です。生き残り免疫細胞が枯渇しないように、適切な間隔で、ワクチンを継続して打つと、予防を続けることが出来ます。肺炎球菌、帯状疱疹などなど、詳しくは、予防接種のページをご覧くださいませ。

⑩身体の中で、病原体との戦争⑤ 生き残り細胞がつなぐ、免疫の記憶

身体の中にウィルスや細菌が入ってくると、食べる細胞(マクロファージ、好中球)がまず反撃し、次に、監視部隊細胞(樹状細胞)の報告を受けた司令官細胞(ヘルパーT細胞)が、2つの特殊部隊に指令を出し、抗体ミサイル細胞(B細胞)と殺し屋細胞(キラーT細胞)が病原体や感染細胞を排除します(病原体との戦争①②③④参照)。しかし、この特殊部隊は強力なものの、整備(特殊部隊細胞の数を増やす)や発動に時間がかかってしまうのが難点でして、病原体が身体に入ってきて1-2週間も時間がかかります。このため、この特殊部隊が働く前に、病原体が早く増殖する場合があり、感染症になってしまうことがあります。これが初回感染の危うさです。

さて、それでは、同じ病原体が、しばらくして再度、身体の中に入ってきたら、どうなるのでしょうか。一度、感染症にかかると、2度目はかからない、なんて話を聞いたことはありませんか。

実は、初回感染の時、病原体と戦った特殊部隊はほぼ死滅してしまうのですが、ほんの一部 一部が、生き残ります。この、戦争を体験した生き残り細胞(特殊部隊細胞)が、2度目の感染の時に、身体を守る主役になります。初回感染で生き残った殺し屋細胞(キラーT細胞)は、次の感染の時には、司令官細胞(ヘルパーT細胞)の号令を受けて、素早く、分裂して増殖し、大幅にその数を増やして、大軍隊を整備します。そして、感染細胞を素早く見つけて身体から排除します。一方、初回感染で生き残った抗体ミサイル細胞(B細胞)も、司令官細胞(ヘルパーT細胞)の号令を受けて、素早く、分裂して増殖し、大幅にその数を増やして、ミサイル大軍隊を整備します。そして、病原体をミサイルで取り囲んで無毒化(中和作用)したりして、身体を病原体から守ります。肝腎なことは、2度目の感染の時には、免疫系が早く強く働くことが出来ることです。初回感染の生き残り細胞が起点となって、殺し屋やミサイルの大部隊を素早く整え、病原体をやっつけるのです。あたかも、病原体感染の記憶が身体に残っているようであることから、免疫記憶と呼ばれます。

⑨身体の中で、病原体との戦争④ 殺し屋細胞

インフルエンザウィルスが、のどや気管に入ってきてしまいました。細菌から身体を守る「食べる」細胞は、相手がウィルスだと力を発揮できません。そこで、病原体との戦争は、第2幕、第2段階から始まります。まず、監視部隊(樹状細胞)が体内に散らばったウィルスの破片を食べて分析し、その内容を司令官(ヘルパーT細胞)に報告します。次に、司令官(ヘルパーT細胞)は、そのウィルス専門の2つの特殊部隊を編制します。ひとつ目は、専門の抗体ミサイル部隊で、抗体ミサイルを発射してウィルスを中和します。この抗体の値は、採血検査で調べることが出来ます。抗体が高いとか低いとか言う、あれ、です。

実は、もうひとつ、ふたつ目の特殊部隊もいます。こちらも強力です。司令官(ヘルパーT細胞)は、体内に備蓄されている数千万種類の殺し屋細胞(その名も、キラーT細胞)に働きかけて、このうち、今回身体に侵入してきたウイルスを専門とする1種類(数種類)の殺し屋細胞を刺激します。すると、その殺し屋細胞は、数が増える共に、スーパーサイヤ人のように強力狂暴になります。そして、身体の中をパトロールして、細胞の膜に触れて正常異常を検査し、異常、つまり、「ウィルスに感染されている」細胞を見つけ出しては、その細胞に毒槍を突き刺して殺し、排除します。感染細胞は、ウィルスの巣食う場所であり、ウイルスが増える場所ですので、身体にとっては有害です。また感染細胞自身も、身体にとって不利益な働きをしかねません。殺し屋細胞は、感染細胞を身体から排除して、ウィルスから身体を守ります。

こうして、あなたは、学校や職場でインフルエンザウイルスを吸い込んでしまいましたが、監視部隊-司令官-2つの特殊部隊、つまり、抗体ミサイル部隊と殺し屋細胞の働きで、インフルエンザウイルスは次第に排除されました。しかし、抗体ミサイル部隊と殺し屋細胞も、十分な数を揃え、病原体殺傷力を高めるのに少し時間がかかってしまうのです。特に、初めての感染では、1週間以上も時間がかかります。このため、発症してはじめの数日間は、どうしてもウイルスの増殖を許すことになり、症状がひどくなります。特に基礎疾患のある方などでは、重症化する危険があります。こんな時は、どうか、早めに受診し、ウィルスを殺すお薬を服用くださいませ。

⑧身体の中で、病原体との戦争③ ウィルスの場合

インフルエンザが流行していますね。お子さまに多く、学級閉鎖の小学校もあるようです。お仕事世代の患者様も多いですね。さて、あなたは、今度は、学校や職場で、空中を漂うインフルエンザウイルスを鼻や口から吸い込んでしまいました。インフルエンザウイルスは、のどや気管に入ってきて、病原体との戦争が始まります。しかし、今度はウィルスが相手です。細菌が相手であった前話⑥⑦とは勝手が違います。

前話⑥で肺炎球菌(細菌)の場合は、「食べる」細胞(マクロファージ、好中球、いずれも白血球の一種)が体内の肺炎球菌を食べて排除しました。今回も、「食べる」細胞が、ウイルスを食べて排除できるといいのですが。しかし、ウィルスは細菌よりもはるかに小さく、およそ100分の1くらいです。また、ウィルスの膜の構造は、細菌とは大きく異なります。このため、「食べる」細胞は、ウィルスを認識できず、ウィルスがそばにいても気付かず、うまく食べることが出来ません。また、細菌とは異なり、ウィルスは身体の中に侵入した後、細胞の中に入り込みます(細胞に感染)。ウィルスは、その細胞の中で、その細胞のタンパク合成の設備を無断借用して、ウィルスのからだの部品(ウィルスの膜とか、タンパクとか)を作らせ、それを集めてウィルスになり、爆発的に数を増やして、細胞の膜を破って外へ出ていきます。そして、次の細胞に感染します。血管の中に入り込み、血液の流れに乗って、体内の他の場所や内臓に移動して、そこでまた細胞に感染し、数を増やします。ウィルスが感染した細胞を除去できるといいのですが、「食べる」細胞は、感染細胞を食べることは出来ません。このように、肺炎球菌との戦争では、生体防御の第一段目を担った「食べる」細胞は、ウィルスに攻められた場合には力を発揮できないのです。

インフルエンザウイルスの増殖を許してしまうと、肺炎になってしまいます。それでは、免疫系は、ウィルスに対して、どのようにして身体を守るのでしょうか。

⑦身体の中で、病原体との戦争② 抗体ミサイル

あなたのお母さんも、他の乗客の咳を浴びてしまい、肺炎球菌を鼻や口から吸い込んでしまいました。肺炎球菌は、のどや気管に入ってきました。前話⑥と同じように、あなたのお母さんの体内で、肺炎球菌との戦争が始まりました。戦争ははじめの段階として、「食べる」細胞が肺炎球菌を見つけて、食べて、肺炎球菌を減らします。しかし、肺炎球菌は数を増やして集塊をつくり、拡がっていこうとします。あなたの場合と異なり、あなたのお母さんの体内では、「食べる」細胞だけでは肺炎球菌を駆除できませんでした。肺で、肺炎球菌が増殖して、つまり、「感染」が起こり、残念なことに、肺炎になりかけてしまいました。

肺炎球菌との戦争は、第2段階に入ります。お母さんの体内で、肺炎球菌専門の特殊部隊が編制され、攻撃の準備を整えます。まず、監視部隊(樹状細胞)が肺炎球菌を食べて分析し、その内容を司令官(ヘルパーT細胞)に報告します。どうやって報告するか? 樹状細胞は、病原体を食べて分解し、そのかけらを突起表面(細胞膜の上)に出して、「こんなの食べたよ、こんなのが体内にいるよ」と表明します。すると、司令官(ヘルパーT細胞)が、そのかけらに触れて形を読み取ります。まるで、ショートケーキを食べると、イチゴやスポンジを皮膚の上に飛び出てきて、上司に見せるようなかんじです(無理ですが)。

次に、司令官(ヘルパーT細胞)は、肺炎球菌専門の特殊部隊を編制します。細菌感染症の場合の特殊部隊は、抗体ミサイル部隊(B細胞)です。司令官は、監視部隊からの報告を受けて、肺炎球菌専門の抗体ミサイルを作れる抗体ミサイル部隊(B細胞)を刺激します。すると、抗体ミサイル部隊(B細胞)は数が増え、肺炎球菌専用の抗体を大量に作って、細胞膜からミサイルのように発射します。すると、抗体は、肺炎球菌やその毒素にたくさん付着して取り囲み、悪さが出来ないようにします(中和作用)。次に、戦争第1段階の主役、「食べる」細胞を呼び込み、その食欲を刺激して肺炎球菌と抗体ごと食べさせることによって、病原体を排除します。

こうして、あなたのお母さんの肺では、肺炎球菌が一旦は増殖して肺炎になりかけましたが、監視部隊-司令官-特殊な抗体ミサイル部隊の働きで、肺炎球菌が排除されて、幸い、肺炎は重症化せずに治りました。抗体ミサイルは強力ですが、はじめての病原体の場合は、抗体ミサイル部隊を整備するのに1週間以上も時間がかかるのが、困った点です。抗体ミサイルが出来る前に、病原体がどんどん増えてしまうと、感染症が重症化してしまいます。このため、お母さんも危ないところでした。こんな時は、ぜひ早めに受診し、細菌を殺す抗生物質を服用くださいませ。

⑥身体の中で、病原体との戦争① 食べる細胞?

あなたは、バスの中で、見知らぬ方の咳を浴びてしまいました。生憎、その方は、肺炎球菌に感染していたのです。咳により、空気中を漂った肺炎球菌が、あなたの鼻や口から吸い込まれて、のどや気管に入ってきました。

肺炎球菌は、あなたの体内で数を増やそうとします。病原体が、

体内で増えると、「感染」したことになります。感染を許すと、肺炎球菌はどんどん増えて、のどから肺に至って肺炎を発症したり、また、のどから耳管(トンネル)を経て中耳に至り中耳炎を発症したりします。また、肺炎球菌が血管の中に入り込み血液の流れに乗って身体の色々な内臓に至り、全身性の感染症が起こることがあります(敗血症)。また、脳や脊髄を覆っている髄膜に感染し、発熱・嘔吐・けいれん等の症状に加えて、20~30%には脳の後遺症(脳梗塞や脳萎縮、髄液が増える水頭症等)で知能や運動の障害が起こります。危険が大きいですね。しかし、あなたの身体には病原体の増殖から身体を守る生体防御の仕組み、つまり、免疫系が備わっています。肺炎球菌の増殖を易々と許すわけではありません。

さあ、あなたの体内で、肺炎球菌との戦争が始まりました。この戦争は2段階です。はじめの戦争の主役は、何でしょうか。それは、「食べる」細胞です。白血球の一種である、マクロファージや好中球などの細胞は、何と、まるでヒトデが貝を飲み込むように、自らの細胞膜を大きく引き延ばして肺炎球菌を囲い込み、飲み込むように、自身の細胞内部に取り込みます。そして、細胞内部で肺炎球菌を分解します。あなたの身体の中で、その「食べる」細胞が、病原体を見つけては、それを食べています。病原体が増える現場は、たとえば、パンにカビが生えて広がったところを見たことがありますでしょうか。身体の中でも、病原体はそのように増えて、集塊を成し、そして拡がっていきます。それを、この「食べる」細胞が見つけては、食べて減らしています。こうして、肺炎球菌が増えるのよりも早く、十分に肺炎球菌を食べることが出来れば、肺炎球菌は体内で増えることが出来ず、やがて消えていきます。これで、「感染」を食い止めることが出来ました。

ところが、さきほどのバスの中で、あなたの隣にいた、あなたのお母さんも、同じように、咳を浴びてしまいました。はたして、どうなるでしょうか。②に続きます。

⑤アイスクリームを食べると、冷たくて、キーンとして、頭痛が起こります。何か、病気でしょうか?

病気かというと病気ではないと思いますが、これは、アイスクリーム頭痛(Icecream headache)という、正式な医学用語として認められている頭痛です。研究も色々されています。例えば、台湾では、約9千人の中学生を調べたところ、アイスクリーム頭痛が40%の中学生に起こること、女子生徒よりも男子生徒に起こりやすい、片頭痛を持つ生徒に起こりやすい、と報告されています。一方、カナダでは、145人の中学生に100 mLのアイスクリームを食べてもらって調べたところ、急いで食べるとアイスクリーム頭痛が起こりやすかった、5秒以内で食べると27%の生徒に起こり、ゆっくり食べると13%の生徒に起こった、そうです。面白いですね。皆さまはいかがですか。

アイスクリーム頭痛のメカニズムは、片頭痛など慢性頭痛と似ている可能性があります。しかし、これらの頭痛とは、いったい、どこがどうなっていて痛いのでしょうか?

まず、頭痛の「痛み」は、脳の実質(脳みそ)が痛いのではありません。脳の中には、痛みのセンサーはありませんので、脳は痛くないです。痛みのセンサーがあるのは、脳を包んでいる膜や、脳の表面や顔の奥にある血管などです。そして、その血管には、三叉神経という神経が細かな枝をたくさん出して取り巻いています。頭痛のメカニズムは十分には分かっていませんが、おそらく、脳の表面や顔の奥にある血管がまず収縮気味で、次に、その血管を取り巻いている三叉神経が神経伝達物質を無駄に放出してしまうせいで都合の悪い血管拡張や炎症が起こり、それを三叉神経が感じ取って興奮し、長い電気ケーブルで脳の深部(脳幹など)に伝えて、「痛み」が発生しているものと推察されます。三叉神経は、普段は、みつまた(三叉)で顔に広く分布していて、頭皮、おでこ、眼球、まぶた、頬、唇、顎、歯茎、舌の感覚を鋭敏につかさどる大切な役目を果たしているのですが、こと頭痛においては余計なことをして理不尽な痛みを作ってしまいます。

それなら、頭痛の治療はどうすればいいでしょうか。上のメカニズムを、ひとつひとつ潰していけば、治療になるかもしれませんね。例えば、血管の収縮を弱める薬、余計な神経伝達物質の作用を遮断する薬、また、血管拡張を抑制する薬、などです。最近、実際にそういう薬が開発されて、患者様に使えるようになってきました。ロキソニンやイブ、セデスで、頭痛が良くならない方も、うまく治療できるようになってきています。

④触れられて分かるのは何故ですか?

おふたりでペアになって、ゲームをしてみましょうか。おひとりの方は目をつぶって下さい。もうひとりの方は、お相手の指を軽く触れて、どの指を触れたか、尋ねてみてください。親指、人差し指、小指、といった具合です。おそらく、正答率は100%に近いです。それでは、靴下を脱いで、今度は、足の指で同じゲームをしてみましょう。おひとりの方は目をつぶって下さい。もうひとりの方は、お相手の足の指を軽く触れて、どの指を触れたか、尋ねてみてください。さてさて、どうでしょう?(相手に足の中指を触れられているのに)回答は「薬指」!、(相手に足の薬指を触れられているのに)回答は「人差し指、第2指」! という具合に、簡単に間違えてしまいます。不思議ですね。役割を交代しても、試してみて下さい。

そもそも、皮膚を触れられたことが分かる、感じるのは、どんな仕組みなのでしょうか。右手の人差し指を触れられると、その皮膚の下にセンサーがあり反応します。そのセンサーから、神経という長い長いケーブルを電気が伝わって、脳の深部(視床)を通って大脳皮質(体性感覚野)まで信号が伝わります。すると、右手の、親指でもなく中指でもなく、たしかに人差し指を、「触れられた」という「感覚」が生じます。手には、このセンサーがとても密に沢山用意されていて、さらには、神経の電気信号の到達する先の大脳皮質(体性感覚野)もとても大きく、つまり、沢山のセンサーや神経が働きます。このため、手の指は、触れた感じを、その僅かな変化や差までも鋭敏に感じ取ることが出来ます。このため、上のゲームでは正答率が100%近くになります。一方、足の指では、センサーも神経も少なく、さらには、担当する大脳皮質(体性感覚野)もとても小さいために、手の指よりも”鈍感”です。このため、ゲームの正答率は低くなります。50%くらいでしょうか。

ヒトは、進化の過程で、手の指を自由自在に精緻に動かすことが出来るようになったため、その後、道具を作ることが出来て、文明を作ることが出来たとも言えます。手の指を精緻に動かすには、手の指の感覚の鋭敏さが必要です。手の指の皮膚のセンサーや神経、その先の大脳皮質の仕組みは、ヒトが発展できた理由のひとつでしょう。もし進化の過程で、足の指も鋭敏だったら、異なる道具が作られたかもしれませんね。足指で動かすスマホとか、足指で車のギアチェンジとか、いかがでしょうか。

③痛風(高尿酸血症)

日本ではかつて「痛風は贅沢病」と揶揄された時代がありましたが、欧米でも痛風(gout)は、the disease of kings(王様の病気)や、rich man’s disease(金持ちの病気)と言われてきました。昔は、痛風患者さんの肉食・大酒・肥満が、まるで王様のような生活習慣と見なされたいうことですね。それでは、なぜ、肉食や大酒が痛風を招くのでしょうか。

肉は筋肉細胞から成ります。動物細胞は通常は核をひとつ持っていますが、筋肉細胞は内部に沢山の核を持っています。この核には、遺伝子というタンパク質の設計図(核酸、DNA)があり、その主な成分がプリン体です。つまり、肉は、ステーキも、マグロやカツオの赤身の刺身も、プリン体を多く含みます。またレバーや白子も多く含みます。一方、植物の細胞も核を持ち、プリン体を含みます。このため、植物由来のお酒、特にビールは、プリン体を多く含みます。

さて、吸収されたプリン体は肝臓で分解されますが、その時に「燃えカス」が出来ます。何でしょうか。そうです、尿酸です。プリン体から尿酸が出来るのです。尿酸は、血液に溶けて、しばらくしてから尿や便と共に体外に排出されます。ところが、尿酸の作られる量が多かったり、排出される量が少なかったりすると、血液中の尿酸が増えて、血液に溶けきれなくなり結晶化します(尿酸結晶)。この尿酸結晶は、関節部分(足の関節、手や肘の関節)に溜まりやすく、それを異物と見なした白血球が攻撃して、関節で炎症が起きて、関節が破壊されてしまいます。運動や暴飲暴食(プリン体を過剰摂取)をすると、この関節の炎症や破壊がさらに激しくなり、強い痛みが生じてしまいます(痛風発作)。「痛風」とは、風が体に当たっただけでも痛む、ので「痛風」と呼ばれてきたようですが、痛む場所がまるで風が吹くように全身の関節を移動することに由来するとも言われています。尿酸は、ほかに腎臓に沈着して腎臓障害を起こしたり、尿路に沈着して尿酸結石を起こすこともあります。痛風の治療では、尿酸が体内で作られにくくしたり、排泄されやすくします。

現代では、欧米の王族はスマートな方が多いですね。痛風は生活習慣病ですが、もう贅沢病とは呼ばれないかもしれませんね。それでは、現代の贅沢病とは、何でしょうか?

②階段を上ると息が切れます。膝が痛いせいかな、湿布をもらっていますが良くなりません。平坦な道では、息切れしません。大丈夫でしょうか。

膝が悪くて、痛いのはおツラいですね。しかし、膝が痛いだけなら、息切れはしませんよ。息切れは、身体に酸素が足りない時に感じます。平坦な道を歩く時よりも、階段を上る時の方が、足の筋力をたくさん使うので、心臓は、足の筋肉に酸素を含んだ血液をたくさん送ります。健康な方の場合、階段を上る時には、心臓は平時(平坦な道)の時の約2倍から4倍の血液を送り出します。この増えた血液の80%は、階段を上るのに使う足の筋肉に送られます。

さて、ところが、です。慢性的に心臓のポンプが弱っている方(慢性心不全の患者様)では、平坦な道では何とか血液を送り出せていても、階段では、必要な量の血液を送り出すことが難しいです。すると、足の筋肉に必要な酸素を送り届けることが出来ず、身体全体として酸素不足になります。すると、脳は、呼吸を増やして、酸素を少しでも多く取り入れようとします。この段階でも、自覚症状としては「息切れ」と感じることでしょう。

さて、さらに困ったことがあります。慢性的に心臓のポンプが弱っている方(慢性心不全の患者様)では、心臓に血液が流れ込みにくくなっているため、心臓の上流にある肺で血液の渋滞が起こり、肺で水分も漏れ出して、水浸しになっています(肺うっ血、肺水腫)。すると、酸素を取込みにくいのです。通常は、呼吸をすると、空気中の酸素を吸い込んで、気管支を通って、肺の小さな風船(肺胞)まで酸素が流れ込んできます。この酸素(気体)は、その小さな風船に絡みついている毛細血管の中に流れ込むことによって、体内に酸素を取り込むことが出来ます。しかし、慢性心不全の方の肺では、酸素が流れ込んできた小さな風船と毛細血管の間に水分が入り込んで溜まり水浸しになっていて、酸素は、風船から血管の中に入り込みにくくなっています。酸素は水に溶けにくいので、風船と毛細血管の間にある水浸しエリアを超えられないのです。このため、慢性心不全の患者様は、酸素を取り込みにくくなっています。階段を上るために普段よりもたくさんの酸素が必要なのに、肺では酸素を十分に取り込めない状況になります。酸欠になってしまいます。この時、患者様は、自覚症状として、はっきり「息切れ」を感じることでしょう。

階段を上る時に息切れのある方は、慢性心不全の可能性があります。まずは、どうか、ゆっくりゆっくり動くようにして、息切れがしないように、されて下さいませ。心臓に負担をかけないようにされてくださいね。

①心不全(慢性心不全)

心臓は、ムキムキの筋肉で出来ていて、血液を拍出するポンプです。心臓は、血液を力強く送り出して、身体の色々な臓器(たとえば、脳、腎臓、膵臓、筋肉などなど)に送り届けます。心臓は4つの部屋から成り、各部屋は弁で仕切られていて、上流から下流に一方向にのみ血液が流れるように出来ています。心臓は、1分あたり50回から100回も収縮し、生まれた時から死ぬまで働き続けて、私たちの命を保っています。手術で胸を開いて実際に見ると、心臓はそれはそれは美しい形や動きです。ここに、「心、こころ」がある、そんな気さえします。

ところが、心臓内の筋がうまく収縮できなくなったり、心臓内の弁の具合が悪くなって血液が逆流したりすると、心臓は血液をうまく拍出できなくなってしまいます。つまり、ポンプが不調になります。すると、血液に含まれる酸素(呼吸により肺で取り込んだもの)などが、身体の色々な臓器に届きにくくなってしまいます。これが、慢性心不全です。この時、ポンプが不調なため、血液が心臓に戻りにくくなって足などに水分が溜まります(浮腫)。また、心臓の左の部屋にも血液が戻りにくくなって、手前にある肺にも血液が渋滞したり水分が溜まったりして(肺うっ血)、これは肺での酸素の取り込みを邪魔するため、息切れなど呼吸が苦しくなったりします。この症状は、階段を上ったり、少し早く歩いたりすると、はっきり現れたりします(労作時息切れ)。慢性心不全は、治療しないと命の危険があり、それは悪性のがんにも匹敵します。

それでは心不全の治療は、どうすればいいでしょうか?かつては、心臓のポンプ機能が弱っているのだから、心臓の筋力や収縮力を高めるような薬剤が治療に使われた時代がありました。ところが、その薬剤によって短期には心臓ポンプにムチ打つことが出来ても、かえって心不全が悪くなって死亡してしまうことが判明しました。アメリカの大規模な臨床研究で分かったことです。これを転換点として、心不全には、心臓の負担を取り、心臓を休ませる方向の治療が、効果があるという考えに変わり、治療が大きく変化しました。弱った心臓ポンプに過大な負担をかけないよう、水分を減らす治療や減塩が大切です。また心不全では、自律神経系(交感神経系)やホルモン等が色々と働いて心臓に負担をかけてしまうため、これら交感神経系やホルモン等の働きを弱めるような治療を、うまく組み合わせます。患者さんおひとりおひとりの循環器系(心臓と血管)の状態を見極めて、適切に治療します。すると、身体を動かした時の息切れや倦怠感などのツラい症状が良くなったりします。

少しずつ、書き足していきます。お待ちくださいませ。